VoicingBoardは、茨城大学の鈴木栄幸先生が開発されたシステムです。

もともと、VoicingBoardは、プレゼンテーション教育で、発表内容に関するマンガを表現し、そのマンガの内容やストーリーを吟味することでプレゼンテーションの説得論理を改善するために開発されました。インターネットブラウザ上のFlashPlayerを用いて動作可能なインタラクティブなアプリケーションです。登場人物とセリフから構成されるマンガを作ってアイデアを表現します。描画はとても簡単で、左側のアクターリストと呼ばれるキャラクターデータベースからドラッグ&ドロップでマンガのセルに投入します。セリフは、吹き出しの表示・非表示の切り替えをマウスクリックで切り替えられますので、必要に応じて表示した上で記入します。背景画像もあらかじめデータベースにアップロードされた画像データや自分でアップロードした画像を使って、セルに当てはめることができます。

プレゼンテーションの本質は、ある目的のために伝えたいことを伝える相手がおり、その相手や、関連する人々の意見とインタラクションしながら進めるという点です。たとえば「タバコは体によくないから禁煙しましょう」という主張で発表したとしても、愛煙家はタバコが有害であることを承知で喫煙しているわけですから、その主張は無視されるかもしれません。そこで、相手に自分の本意を適確に伝達し、ものごとを進めていくことができるようになるためには、さまざまな人々の声(多声)との仮想対話を行い、ものごとと人々の関係のあり方を吟味できるようになる必要があります。先の例では、愛煙家の意見や立場を仮想的に想像し、対話することにより、どのようにしたら納得性が高まるのかを吟味し、別の説得論理を作ることが必要です。

VoicingBoardは、そうした仮想対話を具体的なイメージとして表現することを支援します。そして描いた内容を振り返ることで、発表のトピックにはどのような人々が関わり、どのように論を進めれば納得性が高まるのかを考えさせます。

専修大学望月研究室では、このシステムの2008年度より、「教育実習1」の授業で、教室で相手をする生徒のことを少しでも具体的にイメージしながら、学習指導案をじっくりと検討する活動を支援するために、授業の導入部分のマンガを描くという演習を行っています。教職課程の学生が学ばなければならない重要な技能の1つに「学習指導案を書くスキル」があります。“いかに生徒のことを踏まえた授業設計をできるようになるか”ということは、教職課程で身につけるべき重要な技能です。教材内容や学習環境を活用して授業を進行する手順を検討するだけでなく、発問・応答といった教授行動と生徒の反応予測を行い、授業の過程を具体的にイメージすることで、授業を運営する上で不測の事態が起きた場合にも柔軟に運用可能なプランニングができるようになります。とくに、学校の授業は、授業者が学習者の学習活動を促進するために、発問という形で生徒に働きかけを行い、それに対して生徒が反応して活動が行われる、その繰り返しで成り立つ双方向的なコミュニケーション過程ですので、そのイメージをしっかりと作っておくことは大変重要です。

しかし、まだ現場に入ったことも授業をした経験もほとんどない3年生にとって、現場の生徒をイメージしながら指導案を考えるということはかなり難しい課題です。そこで、学生たちが授業の導入で子どもたちのさまざまな声を想定し、効果的な発問とやりとりを計画する力を身につけるために、VoicingBoardを使うことで、マンガ上に明示化された生徒たちに、どのように働きかけていくのかということを検討する演習を導入しています。

こうしたシステムの利用により、学生たちがよりよい指導案へと修正していくのに効果的であることが示されてきました。詳細は、リンク先をごらんください。

*VoicingBoardは、株式会社スパイスワークスの協力により開発されています。
*専修大学での授業研究は、科学研究費補助金(基盤研究(B)(課題番号20323199、課題番号23300295)代表者:鈴木栄幸)によって進められています。